人事担当者の皆様は、労働時間、休日出勤、賃金など、従業員の待遇に関するルールの複雑さに頭を悩ませていることでしょう。
特に、労使協定と労働協約は、種類、効力、手続きが異なるため、適切な選択が事業運営の効率性や法的リスク軽減に大きく関わってきます。
従業員の権利と企業の経営状況をバランスよく考慮し、最適な制度を選ぶには、両者の違いを正確に理解することが不可欠です。
そこで今回は、労使協定と労働協約の違いを明確に解説し、人事担当者の皆様の課題解決に貢献します。
それぞれの定義、締結手続き、法的効力、違反時の罰則について網羅的に説明することで、自社に最適な協定を選び、円滑な労使関係を構築するための指針を示します。
労使協定の定義と効力
🔸労使協定とは何か
労使協定とは、労働基準法で定められた最低限の労働条件について、事業場の全従業員を代表する者(過半数代表者)と使用者との間で、例外的により有利な条件を合意するための制度です。
労働基準法では、労働者の保護を目的として、労働時間、休日、賃金などに最低基準が定められていますが、事業場の状況によっては、これらの基準を遵守することが困難な場合もあります。
そのような場合に、労使協定によって、法定労働時間超過や休日労働などを認めることができます。
労使協定は、労働基準法の規定を「例外的に」変更する効力を持つ点に注意が必要です。
🔸労使協定の法的効力
労使協定は、書面で作成され、両当事者の署名または記名押印が必要です。
また、協定の内容によっては、労働基準監督署への届け出が義務付けられている場合があります(例えば、36協定)。
労使協定は、国家規制の解除効力を持つとされています。
つまり、協定に基づいて行われた行為は、労働基準法違反には問われません。
しかし、労使協定は、それ自体では労働契約上の権利義務を設定する効力を持たないため、具体的な労働条件は、労働協約、就業規則、または個々の労働契約で定める必要があります。
🔸労使協定の締結手続き
労使協定の締結手続きは、協定の内容によって異なりますが、一般的には、まず、過半数代表者が使用者と交渉を行い、合意内容を文書化します。
その後、両当事者が署名または記名押印を行い、必要に応じて労働基準監督署に届け出ます。
過半数代表者の選出方法や、協定内容の決定プロセスは、透明性と公正性を確保することが重要です。
🔸違反時の罰則
労使協定に違反した場合、使用者には、労働基準法違反として罰則が科せられる可能性があります。
具体的には、罰金が科せられるケースや、民事上の損害賠償請求をされるケースなどが考えられます。
また、届け出義務のある労使協定で届け出を怠った場合も罰則の対象となります。
協定の内容や違反の内容によって、罰則の程度は異なります。
□労働協約の定義と効力
🔸労働協約とは何か
労働協約とは、労働組合と使用者との間で締結される、労働条件に関する合意のことです。
労働組合は、労働者の団体交渉権に基づき、使用者と交渉し、より良い労働条件を確保するために労働協約を締結します。
労働協約は、労働組合員を拘束する規範的効力を持つため、就業規則よりも優先されます。
労働協約は、労働組合員にとって、労働条件の改善や権利の保障を目的としています。
🔸労働協約の法的効力
労働協約は、書面で作成され、両当事者の署名または記名押印が必要です。
労働協約は、規範的効力を持つことが特徴です。
これは、労働協約で定められた労働条件は、組合員の労働契約を直接規律する効力を持つことを意味します。
つまり、労働契約に定めのない部分についても、労働協約の規定が適用されます。
労働協約に違反する労働契約は無効となります。
🔸労働協約の締結手続き
労働協約の締結手続きは、労働組合と使用者間の交渉によって行われます。
まず、労働組合が交渉の提案を行い、使用者と協議を重ね、合意に至ります。
合意内容を文書化し、両当事者が署名または記名押印することで、労働協約が成立します。
締結された労働協約は、労働組合員に周知徹底される必要があります。
🔸違反時の罰則
労働協約に違反した場合、使用者には、民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
また、労働基準法違反に該当する場合は、罰金が科せられる可能性もあります。
さらに、労働組合法上の不当労働行為に該当する場合もあり、損害賠償請求や是正命令などの措置が取られる可能性があります。
□労使協定と労働協約の選び方
🔸両者の違いを比較検討
労使協定と労働協約は、締結主体、効力、適用範囲などが異なります。
労使協定は、労働基準法の例外規定を利用して、労働条件の柔軟な設定を可能にする一方、労働協約は、労働組合と使用者間の団体交渉によって、より良い労働条件を確保することを目的としています。
それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、自社の状況に最適な協定を選択することが重要です。
🔸自社に最適な協定の選択
自社に最適な協定を選択するには、まず、自社の事業内容、従業員の状況、経営状況などを考慮する必要があります。
例えば、労働時間に関する規制の緩和が必要な場合は、36協定などの労使協定が有効です。
一方、賃金や福利厚生などの労働条件の改善を目的とする場合は、労働協約が適切です。
労働組合の有無や組織率も重要な要素となります。
🔸就業規則との整合性確保
労使協定と労働協約は、就業規則と整合性を保つように作成する必要があります。
就業規則は、労働協約や労使協定よりも優先順位が低いため、両者の規定と矛盾しないように、就業規則の内容を修正する必要がある場合があります。
就業規則、労働協約、労使協定の三者の関係性を明確に整理しておくことが重要です。
🔸専門家への相談
労使協定や労働協約の作成・締結は、法律の専門知識が必要となる複雑な作業です。
不明な点や不安な点がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで、法的リスクを軽減し、円滑な労使関係を構築することができます。
□まとめ
労使協定と労働協約は、どちらも労働条件に関する合意ですが、締結主体、法的効力、適用範囲などが異なります。
労使協定は労働基準法の例外規定に基づき、労働条件の柔軟性を高める一方、労働協約は労働組合と使用者間の団体交渉によって、より良い労働条件を確保することを目的としています。
自社に最適な協定を選択するには、事業内容、従業員状況、経営状況などを考慮し、就業規則との整合性を確保することが重要です。
専門家のアドバイスを受けることで、法的リスクを軽減し、円滑な労使関係を構築できるでしょう。
それぞれの違いを理解し、適切な協定を選択することで、従業員の権利と企業の経営状況のバランスを取ることが可能となります。