固定残業代と就業規則トラブル防止のための適切な記載方法

固定残業代は、人事担当者にとって悩ましい課題の一つです。
就業規則に適切に記載しなければ、労働基準法違反や従業員とのトラブルに発展する可能性があります。
毎月の給与計算における負担軽減を期待して導入する企業も多い一方で、その運用には細心の注意が必要です。
社会保険料算定への影響も考慮しなければならず、誤った運用は思わぬコスト増加につながることも。
今回は、固定残業代を巡るトラブルを防ぐための就業規則の書き方を、具体的な記載例とともに解説します。

 

固定残業代の法的注意点

 

🔸金額と時間数の明記

 

固定残業代は、基本給とは明確に区別して記載する必要があります。
単に「固定残業代〇〇円」と記載するだけでは不十分です。
具体的な金額に加え、その金額が何時間分の残業に対応するのかを明記しなければなりません。
例えば、「固定残業代5万円(30時間分)」のように、金額と時間数をセットで記載することが重要です。
従業員ごとに異なる金額や時間数を設定する場合は、就業規則にはその旨を明記し、個々の労働条件を雇用契約書などで別途明確に示す必要があります。
裁判例では、基本給に含まれる割増賃金部分が明確に区別されていなければ、その部分を割増賃金と認めない判決が出ています。

 

🔸超過分の残業代支給

 

固定残業代は、あくまで「みなし残業時間」に対する対価です。
従業員の実際の残業時間が、就業規則で定めたみなし残業時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払う必要があります。
この点を明確に記載しなければ、労働基準法違反に問われる可能性があります。
就業規則には、「みなし残業時間を超えた場合、超過時間分の残業代を支給する」旨を明記することが不可欠です。

 

🔸社会保険料算定への影響

 

固定残業代は、社会保険料の算定基礎となる賃金に含まれます。
そのため、固定残業代の金額によっては、社会保険料の負担額が変動します。
人事担当者は、固定残業代の金額設定と社会保険料算定の関係を理解し、適切な金額を設定する必要があります。
特に、4月~6月の平均報酬額が社会保険料の算定に影響するため、この期間における固定残業代の支給状況を正確に把握しておくことが重要です。

就業規則への適切な記載方法

 

🔸残業代の定義と算定方法

 

就業規則には、残業代の定義と算定方法を明確に記載する必要があります。
具体的には、残業の対象となる時間帯、割増賃金の計算方法(時間外労働、休日労働、深夜労働など)、支給基準などを詳細に記述します。
計算式を具体的に示すことで、従業員にも理解しやすく、トラブルを防止できます。
また、法定時間外労働と法定休日労働を明確に区別し、それぞれに適切な割増率を適用する必要があります。

 

🔸労働時間に関する規定

 

労働時間に関する規定は、固定残業代の算定に直接関係するため、正確かつ詳細に記述する必要があります。
1日の労働時間、休憩時間、1週間の労働時間、所定労働時間などを明確に定め、時間外労働の定義を明確にすることが重要です。
また、時間外労働の申請・承認手続きについても規定しておくことで、残業時間の管理を徹底し、不正を防ぐことができます。

 

🔸割増賃金に関する規定

 

割増賃金に関する規定は、固定残業代の算定において最も重要な部分です。
就業規則には、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増率を、労働基準法に則って明確に記載する必要があります。
また、割増賃金の計算方法についても詳細に記述し、従業員が理解しやすいように配慮することが重要です。
休日出勤や深夜労働を含めて固定残業代に算入する場合は、その旨を明記し、それぞれの割増率を明確に示す必要があります。

 

トラブル防止のための対策

🔸従業員への周知徹底

 

就業規則を作成しただけでは不十分です。
従業員に就業規則の内容、特に固定残業代に関する規定を、きちんと理解させ、周知徹底する必要があります。
説明会を開催したり、書面で配布したりするなど、様々な方法で周知徹底を図りましょう。
また、従業員からの質問に丁寧に回答し、疑問点を解消することで、理解度を高めることができます。

 

🔸記録の適切な管理

 

残業時間や固定残業代の支給に関する記録は、正確に管理する必要があります。
労働時間に関する記録は、労働基準監督署の調査に備えて、少なくとも3年間保存しておくことが求められます。
記録の管理体制を整備し、記録の改ざんを防ぐための対策も必要です。
電子データで記録する場合には、データのバックアップも忘れずに行いましょう。

 

🔸就業規則の見直しと更新

 

法改正や会社の状況変化などに伴い、就業規則の内容を見直す必要があります。
定期的に見直しを行い、必要に応じて更新することで、常に最新の法令に適合した就業規則を維持することが重要です。
専門家(社会保険労務士など)に相談しながら、適切な見直し・更新を行うことをお勧めします。

 

まとめ

 

固定残業代制度は、適切な運用をすれば、人事労務の負担軽減と従業員の収入安定化に役立ちます。
しかし、法的な要件を満たさず、運用を誤ると、大きなリスクを負うことになります。
今回解説した法的注意点、適切な記載方法、トラブル防止策を踏まえ、自社の状況に合った就業規則を作成し、従業員への周知徹底、記録の適切な管理、定期的な見直しを徹底することで、固定残業代を巡るトラブルを未然に防ぎ、円滑な労使関係を構築することが重要です。
必要に応じて専門家の意見を参考にしながら、慎重に検討を進めるべきでしょう。

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