昇給を年齢でストップさせるのは法的にOK?企業が注意すべき点とは

企業の人事制度設計において、従業員の昇給年齢上限設定は、長期的なキャリア形成支援と持続可能な組織運営の両立を目指す上で、多くの経営者や人事担当者が頭を悩ませるテーマの一つです。
年齢のみで昇給を停止することの法的な許容範囲や、公平性を保ちながら制度を運用するための注意点、そして企業戦略としての意義について、ここでは掘り下げていきます。

従業員の昇給年齢上限設定は法的に問題ないか

年齢による昇給ストップの法的許容範囲

法律上、定期昇給そのものが義務付けられているわけではありません。
そのため、就業規則や労働協約などで昇給に関する明確な定めがない場合、年齢を理由に昇給を停止すること自体が直ちに違法となる可能性は低いと言えます。
しかし、もし就業規則等で「定期昇給を行う」旨が定められている場合、それを一方的に変更することは、労働条件の不利益変更とみなされ、法的な問題が生じる可能性があります。
一定年齢への到達を理由とする昇給停止も、その運用方法によっては許容される範囲がありますが、法的な解釈には注意が必要です。

年齢のみでの昇給停止の妥当性

年齢のみを基準として昇給を停止することについては、従業員から公平性への疑問や不満の声が上がる可能性があります。
例えば、「仕事の内容や責任は変わらないのに、年齢だけで昇給がなくなるのは納得できない」といった意見は少なくありません。
基本給を大幅に引き下げるようなケースは違法性が高まりますが、昇給を据え置くという形式であれば、直ちに違法となる可能性は低いとされます。
しかし、職場内での公平性や従業員のモチベーション維持の観点からは、年齢「のみ」に依存する昇給停止は慎むべきでしょう。

職務内容との連動で公平性担保

昇給年齢上限設定に公平性を持たせるためには、年齢だけでなく、従業員の職務内容、職責、貢献度、能力、経験といった要素と連動させることが重要です。
例えば、一定年齢に達した際には役職定年を導入し、管理職としての責任を軽減する代わりに、昇給を停止または抑制するという考え方があります。
また、特定の専門職や、より高度な職務を担う者については、年齢に関わらず昇給機会を設けるなど、個々の状況に応じた柔軟な運用が、従業員の納得感と公平性を高める鍵となります。

企業が昇給年齢上限を設定する際の注意点

就業規則への規定と周知義務

従業員の昇給に関する事項は、就業規則における「絶対的必要記載事項」に該当するため、昇給年齢上限を設定あるいは変更する際には、その内容を就業規則に明確に規定することが不可欠です。
さらに、就業規則の変更や新規制定にあたっては、変更内容を従業員に周知する義務があります。
規程の変更点を明示し、従業員がいつでも確認できる状態にしておくことが求められます。

不利益変更とならないための要件

昇給年齢上限の設定や引き下げは、従業員にとって労働条件の不利益変更にあたる可能性が高いです。
労働契約法では、就業規則の変更による不利益変更が認められるためには、変更の「高度の必要性」があり、変更後の就業規則を労働者に周知していること、そして労働者がその変更を「合理的なものとして受容」することが必要とされています。
特に、従業員への説明や同意を得られないまま一方的に変更した場合、その変更が無効と判断されるリスクがあります。

従業員への説明と理解促進

昇給年齢上限の設定は、従業員のキャリアや生活設計に大きな影響を与えるため、企業は一方的な通達ではなく、丁寧な説明と対話を通じて従業員の理解を得ることが極めて重要です。
なぜその制度を導入するのか、その背景や目的、そして年齢以外の昇給基準や、定年延長、継続雇用制度といった他の人事制度との関連性などを、具体的に説明する必要があります。
従業員が制度の意図を理解し、納得できるようなプロセスを踏むことが、組織内の円滑な運用に繋がります。

昇給年齢上限設定の企業戦略

年齢による昇給停止のメリットデメリット

年齢による昇給停止の主なメリットとしては、人件費の抑制や、将来の人件費予測の精度向上、そして若手・中堅社員への昇給機会や昇給原資の確保が挙げられます。
一方で、デメリットとしては、ベテラン層のモチベーション低下や、年齢のみでの判断に対する不公平感からの優秀な人材の流出リスク、組織全体の活性化の阻害などが考えられます。
これらのメリット・デメリットを十分に理解した上で、制度設計を進める必要があります。

年齢以外の昇給基準との組み合わせ

年齢のみを昇給の判断基準とするのではなく、職務遂行能力、成果、貢献度、経験、専門性といった客観的かつ多角的な基準を組み合わせることが、より実効性のある昇給制度を構築する上で不可欠です。
これにより、従業員は年齢に関わらず、自身の能力や成果が正当に評価され、昇給に反映されるという期待を持つことができます。
従業員の意欲を高め、組織全体の生産性向上に繋がるでしょう。

人事制度全体での整合性

昇給年齢上限設定は、単独で存在するものではなく、企業の人事制度全体、例えば人事評価制度、報酬制度、キャリア開発支援制度、定年・継続雇用制度などと、整合性が取れている必要があります。
例えば、定年年齢の引き上げや、役職定年制度、さらには従業員の多様な働き方を支援する制度などと連動させることで、昇給年齢上限設定が、従業員の長期的な活躍と企業の持続的成長を両立させるための戦略的な一手となり得ます。

まとめ

従業員の昇給年齢上限設定は、法的な観点からは直ちに違法とはならない場合もありますが、公平性や不利益変更の原則を考慮すると、慎重な検討が不可欠です。
就業規則への明確な規定、従業員への丁寧な説明と理解促進、そして職務内容や成果といった年齢以外の基準との組み合わせが、制度を円滑に運用するための鍵となります。
企業は、年齢による昇給停止のメリット・デメリットを理解し、人事評価制度や定年制度など、他の人事制度との整合性を図りながら、従業員のモチベーション維持と企業の持続的成長を両立させる戦略的な制度設計を進めることが求められます。

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